というわけで、タイ最高峰(2,256m)を誇るドーイ・インタノーンを踏破して、“幻のコーヒー桃源郷”を目指すという地獄のトレッキングが始まったわけだが。
山麓の駐車場に着いた豪華ワゴン車から降りて、思わずのけ反った。
その駐車場、というよりも狭い赤土の空き地には、なんと爺様が先頃、命からがら逃げ出して来た山奥の村とおんなじ民族衣装を着たポーカレン族の男女が、所在なげに屯していたのである。
*
し、しまった、たばかられたかあ!?
三十六計、逃げるが勝ち!
そう思って身構えたのだが、冷静に考えてみれば相棒のウイワットが、卑劣な全国指名手配網を張り巡らせたしつこい元嫁の姑息な策謀なんぞに加担するわけがない。
しかも、その連中と来たら村の衆と同様に、いかにも「タレパンダ」ならぬ「タレカレン」と呼びたくなるダレ様なのである。
しかし、これから命懸けでタイ最高峰2,565mに挑もうというのに、この緊迫感の無さは一体どういうことなのだろうか?
*
私は腰の刀の柄に手をかけたまま、注意深くあたりを見回した。
事前に、ここには要塞のような検問所があり、リンチまがいの厳しいボディチェックを受けたあとで、法外な入山料とガイド料をむしり取られると聞いていたからだ。
ところが、目の前にあるのはちゃちなテーブルの受付だけ。
しかも、そこに座しているのはスマホをいじる若い娘とぼんやりと脇に立つカレン服の娘だけだ。
この立ち娘、一見若く見えるが、青い色柄の巻きスカートを穿いている。
これは、すでに結婚しているという証である。
未婚のカレン処女(おとめ)は、足首まで覆う長い真っ白のワンピースを身にまとうのが決まりなのだ。
どうです? え?
この知られざるカレン族の伝統的風習を、ひと目で鋭く見抜く日本人なんて、世界中を探しても皆無ではありますまいか?
さすが、11年間も暮らしたカレンの村から這々の体で逃げ出した偉い爺様よなあ。
*
さて、話は一向に前に進まないのだが、これには大きな理由がある。
大枚200バーツを払って雇ったカレン族のガイドが、どうにも冴えないのである。
ガイドの雇用は、国立公園における登山の際に必須の条件として義務づけられている。
いくら頼りないガイドでも、これを拒否するわけにはいかない。
そこに現れ出たるわれらが有料ヒーロー、名前をシッテェデェという。
名前からして、なんだかなあ、という感じなのだが、略称はデェである。呼びにくいから「デェ〜オ」と呼ぶことにした。
♪デェ〜オ、イデデ、イデデ、イデデ、イデデ、イデデ、デェ〜オ♪(この選曲は一定の年代にしか通じない年齢差別である、へへへ、ざまあご覧あそばせ!)
おいおい、しっかり頼むぜえ。
向こうでは若い女性ガイドが立派な英語を駆使して、ファランのカップル相手にテキパキと注意事項を説明しているではないか。
ともかく、このデェ〜オの力弱い先導によって、バンコクからの遠征大将軍西尾さんを隊長にいただくわれらが決死の「チェンマイコーヒー探検隊」は、拍子抜けの勇ましくない出発を遂げたのだった。
そして、その1分後にこの有料ガイドがほぼ100%英語を理解できないことに気づき、愕然となる。
Oh my Budda!
だが、今さら怒っても間に合わない。
西尾隊長による見事な統率戦術のもと、約1名の老探検隊員は、驚き呆れ、しまいには吹き出しながらこのデェ〜オの美点だけを愛することに決めた。
なにせ、その出立ちからして笑わせてくれるのだ。
割り竹を繋ぎ合わせた隙間だらけの壁、床からできたカレン族独特のよれよれ高床住居から、寝起きのままふらりと庭に出て小用を済ましているような実に情けないサンダル履きなのである。
これがこの国立公園指定、タイ最高峰の山頂へと導くという神々しい役割を担うべき神の使者のあるべき姿なのだろうか。
ああ、情けない。
*
それでも、デェ〜オ、やるべきときには一応、やるのであるらしい。
腹がえぐられたように削られた姿の樹木を指さして、
「これ、火を熾すときに削って使うね」
「おお、そうか、そうか、あの着火剤のことだな」
打てば響くように応える爺様の姿を見て、大都会暮らしの西尾隊長は怪訝な顔だ。
そりぁそうだろう、あの松・杉系の樹脂をたっぷり含んだ着きのいい着火剤、実際に鉈で割って囲炉裏で燃やしたことのある人間にしか分かる訳がないのだ。
さすが、毎朝の飯炊き、皿洗い、薪割り、焚火熾しとさんざこき使われて来た元奴隷の爺様であることよなあ。
*
思わぬ視点からの意思の疎通に気を良くした番頭さん、もとい、元奴隷の番頭さんでありながら、今は探検隊員にまで出世した孤高の爺様。
木の幹にびっしりと産み込まれた蝶の卵や切り傷に効くという薬木の仔細な観察、大きな蔦でのブランコ遊び、土手側から湧いてくる山清水の試飲などなど、一応のポイントは抑えているらしいデェ〜オの愛嬌あるガイドぶりに、次第次第に引き込まれるようになってきた。
渓流沿いの美しいトレッキングロードをゆるゆると歩む探検隊の前に、突如として立ちふさがる大小、形態、水勢さまざまなる壮麗なる滝との連続遭遇に、息を呑み、感嘆し、見惚れ、時には原初への身震いするような怖れすら感じながら・・・。
望みはかなき探検隊は「幻のコーヒー桃源郷」への憧憬の念を、ますます深め高めてゆくのであった。
*
それにしても、わが愛しきデェ〜オよ。
頼むから、いきなり崖の上の虚空に指を突き出して「スパイダー!」「スパイダー!」と連呼するのだけは、もう止しにしてくれないか。
だって、いくらお前さんが半透明な蜘蛛の巣に身を潜めて獲物を待つ神々しい蜘蛛の姿が好きだからといって、指差されたわれわれタイ化、もとい完全退化した日本人の目には、あんな小さな蜘蛛の姿なんぞ、決して見えやしないのだから・・・。 (つづく)
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