チェンマイで悠々として急げ!

カレン族の村から迷い出たクンター(爺様)のよれよれ、とぼとぼ「再生記」

カテゴリ: 友との惜別

村の衆

「ああ、いい風ですねえ」

 鹿児島からのゲスト、Aさんはそう言いながら山の端に目をやった。

 なんでも、風の匂いが似ているのだという。

 教師をリタイア後、祖父母が遺した土地と家を守り田舎暮らしをしているのだそうな。

      *

 「それにしても、久しぶりにのんびりできました」

 なにせ、1ヶ月以上滞在していたバンコクでは、連日連夜コンサートに通い詰めていたのだそうだ。

 「ルゥクトゥーン」と呼ばれるタイ歌謡曲の大ファンなのである。

 ここ数年に及ぶタイ旅行は、すべてコンサート追っかけのために費やしてきたという。

 私はその世界にまったく疎いのだが、収録ビデオを見せてもらい、これまでに何枚かCDを買った女性歌手がこのジャンルの歌い手であることを初めて知った。

 ポップスやロックとは異なる大衆的な歌謡曲という位置づけで、バックダンサーと共に歌い踊るのが特色だという。

 かつては日本の演歌に通じる歌詞や曲調が多かったそうだが、最近ではポップスとの融合も進み、かなり洗練されてきた様子。

 だが、大衆に溶け込むという姿勢は変わらず、会場も都心のコンサートホールなどではなく、郊外のお寺、ショッピングセンターの駐車場や空き地などが多用されるという。

     *

 お寺ではむろんタンブン(功徳・寄進)が主な目的となり、企業や檀徒がスポンサーとなる。

 富裕者が、自らの得度を祈念して個人で有名歌手を呼ぶケースもあるという。

 従って、入場料は基本的にタダ。

 時に、椅子代として20バーツを支払う程度なのだそうな。

 かくして、庶民たちはテレビでも知られる有名歌手の生の歌と姿に無料で触れることができる。

 警備も驚くほど緩やかで、サインやツーショット撮影にも気軽に応じてくれるのだそうだ。

 Aさんなどツーショットはおろか、楽屋での歌手との交流やレコーディング風景の見学なども体験しているという。

 それにしても、すさまじいほどの執念、もとい情熱である。

 日本からこれほど熱心に通い詰めてくれるファンがいるなんて、 ルゥクトゥーンの歌い手たちも歌手冥利に尽きるのではあるまいか。

      *

 そんな話をしていると、ついつい夜の酒が進んでしまう。

 ルゥクトゥーンの歌詞に自分の来し方を重ねることの多い嫁も、大喜びだ。

 翌朝は薄曇りだったが、川沿いの道を歩いて棚田や360度の眺望が広がる高台に案内した。

 午後になって、増水して迫力を増した滝に案内すると綺麗な青空が広がった。

 迂闊にもカメラを忘れてしまったのだが、おかげで往路には、田植えで緑濃くなった棚田の大眺望を楽しんでもらうことができた。

 ビールと焼酎が、またまたうまい。

 主な話題は、むろんルゥクトゥーンの世界である。

      *

 翌朝、8時発のバスに乗り込むAさんを見送った。

 一泊するチェンマイでもルゥクトゥーンの情報を集め、できればコンサートに。

 翌日飛ぶバンコクでも、最後の夜のコンサートを楽しみたいという。

 そして、年末には再びタイにやってきてコンサートの追っかけツアーを敢行する予定。

 チェンマイでの追っかけを実現させて、ぜひオムコイ再訪も。

 そんな話を交わしながら、固い握手を交わした。

※旧ブログから見つけた最初の訪問時の記事を再録して、亡きAさんに捧げます。

*もしも、チェンマイで運転手付きワゴン車&乗用車が必要になったら!
【連絡先】 SV GLOW Co., Ltd.
*日本語専用電話 09-3291-0786 (広報支援ボランティア直通)     
*日本語専用e-mail : bestdrive-chiangmai@yahoo.co.jp
*URL : https://www.facebook.com/kunta2627/?modal=admin_todo_tour

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爺さんと.拡大

 またひとり、友の訃報を聞いた。


 私よりも二歳年上で、まだ68歳だった。


 最後に会ったのは、わが宿を2度目に訪ねてくれた2015年の6月である。

 その後、しばらくご無沙汰していたので、村を離れた直後にFacebookでメッセージを送った。
 

 だが、一ヶ月以上経っても返事が届かない。

 妙な胸騒ぎがした。

有村ムービー

有村横顔

有村横顔ポーズ

 
 心急かれるままに、彼と同じくタイの「ルクトゥーン(大衆歌謡曲)」を愛する共通の友人に問い合わせた。


 返事は、すぐに戻ってきた。
 

 彼はいわゆる追っかけだった。
年に数度もタイを訪れては各地で行われるコンサートを追いかける。
 
 決して高級な会場ではなく、お寺やショッピングセンターの駐車場などで行われることが多いという。
座席などはなく、パイプ椅子を20バーツで借りるような騒音混じりのざっかけな雰囲気の中での演奏と声援だった。


 彼は、そんな劣悪な環境の中でひたすらビデオを回し続けた。
 

 なぜなら、それこそが彼の愛するルクトゥーンだからだ。
 

     *

 高校の校長まで務めた彼は、哲学やクラシック音楽にも造詣が深かった。
 

 そんなあなたが、なぜ大衆歌謡のルクトゥーンを?
 

 忙しい追っかけの合間に、何度もオムコイの我が宿を訪ねてくれた彼にそう訪ねたことがあった。


 彼は私のリクエストで流してくれていたタカテンの曲に身を揺らしながら、心に染み入るような笑顔でこう答えた。


「理屈抜きに楽しい音楽だから」
 

竹橋ポーズ

有村さん渡り
   

 昨日初めて知らされたことだが、彼はステージⅣのガンを患っていたという。
 

 そして、今年の7月に交通事故で逝った。
 

 反対車線に飛び出してガードレールにぶつかり、その反動で反対側の堤防に激突するという大事故だったという。
 
 その瞬間、一体彼の身に何が起こったのか?
 

 彼の仲間たちは、連絡の取れなくなった彼の安否を、あらゆる手を尽くして探ったのだという。


 彼はリタイア後、家族と離れて先祖代々受け継いだ桑畑をひとりで管理していた。


 そこで、仲間たちは彼が暮らしていた鹿児島の地方新聞にアクセスして、ようやく彼の事故と死を報じる記事を見つけた。


 以降、親族とも連絡がとれないため、これ以上の詳しい情報は得られなかったそうだ。
  

      *
 

 それにしても、そのとき、彼の身に一体何が起こったのか?
 

 今となっては、それを知る術はない。
 

 ただ一つだけ言えるのは、彼はその瞬間が来るまで、クルマの中でルクトゥーンを聴いていたはずだということ。


 そして彼岸へと旅立ったあとも、大好きだったルクトゥーンを体を揺らしながら陽気に楽しんでいるに違いないのだということだ。
 
 むろん、その手には私と酌み交わし合った村のラオカオ(米焼酎)のグラス・・・。


 友よ、陽気に眠れ。
 

 そして、体揺らしつつ聴けよ、今も私の胸に流れ続けるあのタカテンの歌声を!

展望台空


 かつて共に過ごした際の写真公開の可否を、もはや彼に尋ねることはできない。

 だが、彼はきっと目尻に深いしわを刻みながら、こう言ってくれるだろう。

 「いいよ、だって理屈抜きに楽しかったんだから」と。

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