コーカイ


「ああ、あたし、もうダメ。今日からもう、日本語ダメ、タイ語もダメ、ぜんぜんダメ、教えられません。だって、彼が、彼が・・・別の彼女のところに行ってしまいました!ウェーン!」

思い返せば、すでに12年前。

ラチャパット教育大学日本語科の女子学生が、涙まじりの理不尽な「個人レッスン打ち切り」を通告した瞬間から、私のタイ語学習への情熱は冷却どころか、完全フリーズしてしまった。

その後迷い込んだ山奥の村では、文字の無いポーカレン語とカレン式発音のタイ語と超ブロークンな英語とが入り乱れて、くんずほぐれつ、七転八倒。

おまけに、こちらを金持ち日本人と勘違いして、怪しい家宝(?)の押し売りは来るわ、借金申し込み人は押し寄せるわ、黒豚や水牛の押しつけは後を絶たぬわ。

ええい、いい加減にしやがれい!

一切の雑音に耳をふさぎ、村でのサバイバルと日本語での本とブログの執筆に専念した結果、せっかく習い覚えた「コーカイ」(タイ語のいろはにほへと)なんぞも、すっかり忘れてしまった。

     *

ところが最近、バイクで山奥の温泉などを訪ねて走り回るようになって、はたと困った。

チェンマイ市街地周辺と違って、田舎にはないのですよお、英語の標識や看板が。

つまり、タイ語が読めないと何が何やら、どこがどこやらさっぱり分からんのである。

人に訊こうと思っても、犬や水牛やトカゲや象はいても、人の姿がまったく見当たらない。

そこで、はたと膝を打ったのですよお。

「そうだ京都行こう、も、もといタイ語を勉強し直そう!」

そういえば、あの有名なバイクツーリング・ブログ「GO! GO!キョロちゃん」の管理人Iさんも、わが山奥の宿にやってきたとき、そう言っておりましたなあ。

「タイの田舎でバイクが故障したり、事故にあったりしたとき、タイ語ができないとどうにもならない」と。

     *

そこで昨日、かつてはチェンマイ大学でも教えていたというタイ人のベテラン教師に頼んで、タイ語のおさらいをやってもらったところ。

ああ、なんとまたもや、あの恥ずかしい幼稚園レベルの「コーカイ」発音からやり直しという結果に相成った。

白板


文法


一番の問題点は、タイ語の5つの声調を中国語の「四声」と混同していたという点。

一見似ているようなのだが、これが大間違いだったというのですなあ。

ええい、面倒だ!

この教師は英語もうまいし、中国語もそこそこ喋るというから、一気に英語と中国語のミックス授業に切り替えてもらおうか。

とも思ったのだが、それでは田舎のタイ語看板は読めないし、タイ語で女性を口説く、も、もとい「泰日心の交流」という美しい長年の大望も果たせない。

うーむ。うーむ。うーむ。

と昨夜から唸り続けた挙げ句、今日は大雨だからバイクツーリングにも行けず、やむなくやっとるのですよお。

ゴーガイ(鶏のに)、コーカイ(卵のた)、コーコン(人のひ)・・・。

ああ、あのとき、あの女子学生が失恋さえしなければ。

ナッケー!(カレン語で困ったもんだ)


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