昨日の記事「天国のような奇蹟」で書いた隠れ家の電気代と水道代についての哲学的再考察である。
タイに関心を寄せる読者の多くは、思わず眉に唾をつけたのではあるまいか。
なにせ、ここ10数年間タイで暮らしてきた私自身でさえ、自分の頬っぺたをギュッとつねったくらいなのだから。
信じられないのも、無理はない。
*
なにせ、電気代10バーツ、水道代20バーツで総計30バーツなのだからなあ。
一人の読者が我がFacebookにコメントを寄せてくれたように、これじゃあ、ビール1本も買えやしないのである。
現に、口の悪い友人の一人などは、「お前さん、記事を面白くする為に話を作っているんじゃないか」などと、やっかみ半分のメールを送りつけてきたくらいなのである。
しかし、私は決して嘘は申しません。
以下に、動かぬ証拠を開示すると共に、さらに発覚した驚愕の新事実を明らかにすることとしよう。
*
昨日の晩飯どき、大家の姪っ子さんが部屋代の領収書なるものを届けに来てくれた。
はあ?
領収証?
まさか、こんなボロ家で(失礼!)そんなありがたいものを貰えるなんて夢にも思っていなかった私は、ひたすら恐縮した。
ところが、その麗しき姪っ子様は、さらに私に一歩近づくと、まるで白魚のような指の右手をそっと差し伸べたのである。
え?
なに、この唐突なシチュエーション?
まさか、新たなる誘惑?
*
んなこと、あるわきゃないのだが、すっかり逆上した爺様、思わずその手を握りしめようとした。
そして、ハッと気がついた。
彼女の紅葉のような(おいおい、白魚じゃなかったのかい)掌の上に、なんと真珠のようにきらめく3枚の1バーツ硬貨を認めたのである。
はあ?
混乱した爺様は、訳も分からずに彼女に右手を差し伸べ、茫然としながらその3枚の1バーツ硬貨を掌で受け止めた。
硬貨には、彼女のかすかなぬくもりが感じられた。
ふわん。
*
うっとりするような残り香を漂わせて、麗しき人が名残り惜しげに去ったあとで。
爺さまは、彼女の残り香が薫る(しつこいなあ)くだんの領収書に、ウットリと眺め入った。
そして、のけ反った。
ガ、ガーン!
そこにはなんと、朝方の衝撃に勝るとも劣らない驚愕の真実が隠されていたのであった。
興奮のあまり混乱した話を整理すると、こういうことになる。
昨日の朝方、大家さんが私に伝えた電気代10バーツは、実はたったの6バーツだったのである。
そして、20バーツと言った水道代の方は、実は21バーツだったのである。
従って、部屋代を含めたその合計額は、先進高度数学に基づいて算出すると、実は1,627バーツだったという形而上的な解となるのであるのである。
皆さん、私の難解な数学理論について来れますかあ?
*
さて、朝方に大家さんを訪ねた際、この爺様はすでに1,630バーツを支払い済みだ。
であるからして、領収書製作担当の姪っ子様は、厳密なるダブルチェックによって精密なる支払額を導き出し、私に対する誠の愛をつらぬくためにも、意を決して3バーツのお釣りを戻しにきてくれたということになる。
私は人知れず、一筋の涙をそっと流した。
この無心の愛に支えられた献身に感動せずして、あなたは一体、何に感動するというのだろうか?
言ってみなさいよ、え?
どうだ、どうなんだ?
え?
*
ああ、今日はすっかり興奮のし続けで、自分でも何がなんだか分からなくなってきたわいなあ。
火照った顔を冷ますべく、早朝の冷涼な空気を吸いに外に出ると、屋根の上の野良ネコまでが私を疑わしそうな顔で見つめている。
しかも、合計3匹である(逃げるとまずいから超望遠を使ったらピンぼけだ)。
本当だってばあ。
私は嘘は申しません。
どこかの誰かさんみたいに、領収証の偽造なんて、決してやっておりませんよお。
だって、ワタシ、タイ語が書けないんだも〜ん。
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