今からおよそ5年半前、かつて住んでいた山奥のカレン族の村に「世界の果ての日本人」という当時は相当有名なテレビ番組が取材にやってきたことがある。
直接的な面識はないのだが、この取材をセッティングした某有力映像プロダクションのNプロデューサーは、腰の低い実に行き届いた人物であった。
日本からやってきた撮影コーディネーターのBさんにしても、番組進行役のタレントのスマイリー菊池さんにしても同様で、私はこのお三方と知り合えたことを、ひそかに誇りに思っていたほどだ。
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ところが、このNプロデューサーの指名を受けて現場に乗り込んできた某ディレクターが、とんでもない愚人だった。
この番組は、一応「バラエティ・ドキュメント」と銘打たれており、それこそ世界の隅々まで現地で暮らす日本人を追いかけて、その生き様を面白おかしく紹介するというコンセプトで成り立っていたようだ。
ところが、「ディレクター」という肩書きを持つこの某氏、ドキュメントの何たるかをまったく分かっていない。
現場で次々に遭遇する事実を映像のメインに据えるのではなく、あくまで出発前に頭の中で自分勝手に描いた脚本を盾にしてまわりを振り回す。
日本では体験できない貴重なシーンを目の当たりにしながら、あくまでも自分の企画に都合のいい駒として切り貼りしてしまう。
Nプロデューサーによれば「信頼できる腕のいいディレクター」という触れ込みだったのだが、それはおそらくバラエティ畑でのことだったのだろう。
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ねちねちと注文をつけてカメラマンを怒らせ、激しい口論の果てに「そんなら、自分で撮れ!」と重たいテレビカメラを放り投げられたり。
みんなで話し合ったその日の日程を急に変更して、勝手に撮影を切り上げたり。
嘘のストーリーをでっち上げる為、私まで巻き込む形で立場の弱いスマイリー菊池さんにいかにもわざとらしい演技をさせたり(スマイリーさんはあとでこっそり私に謝ってくれた)。
現場の混乱もひどかったが、放映後に送られて来た番組DVDのひどさも目を覆うようなものだった。
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私はメールを通じて、激しく抗議をした。
その怒りの発散をブログで読んだ読者は、おそらく私がなぜそこまで怒っているのかが理解できなかったはずだ。
なぜなら、私は撮影現場での某ディレクターの暴君ぶりを、まだブログで明らかにしていなかったからだ。
怒りはすべて某ディレクターに向けられたのだが、立場上、Nプロデューサーがすべてを引き受ける形になった。
某ディレクターはN氏の盾に身を隠して、私に向かって直接謝罪することは一切なかった。
私の我慢の限界はついにぶち切れ、それまでN氏にも告げなかった事実のすべてを洗いざらいぶちまけて、以降ぶつりと連絡を絶った。
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それから5年半が経って、私はあの取材の舞台になった村の家を捨てた。
そして、チェンマイにおける新生活の模索の一環として、再びN氏に相談のメールを送ることになった。
N氏はすでに海外取材の現場を離れていたものの、今なおあの時の不始末に心を痛めていること、部下や上司に対して積極的に海外取材における注意の喚起を促してきたことなどを率直に語ってくれた。
そうして、唐突な私の相談にも懇切な回答を与えてくれたのである。
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彼からの回答は、もしかしたら私のこれからの生き方にある転回点をもたらすほどの大きなきっかけになるかも知れない。
すさまじい怒りを発して連絡を絶っておきながら、5年半の長きののちに突如としてメールを寄越し、なおかつ面倒な相談事を持ち込んだ私に対して、彼はあくまで冷静に、しかし親身になって回答を用意してくれた。
思うに、彼はテレビ業界において相当の重きをなしている人物に違いない。
そんな彼が、無数の番組を抱えている中、単なる一被取材対象者にそこまで誠意を尽くしてくれたのはなぜか?
当時の私は著書を発行したばかりで、そうした事実に敬意を表してくれたのかも知れない。
しかし、あれからすでに多くの時間が流れているのだ。
無視しようと思えば、いくらだってできたはずである。
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キーワードは、「闘い」にあったのだと思う。
あのとき、もしも私が自分と家族と村の衆の名誉を守る為に必死に闘わなかったとしたら、私の存在も彼の中にはさほど深く刻まれなかったに違いない。
だが、テレビ業界全体の改善へ向けた真摯な提言をも含むその闘いの鮮烈な記憶が、彼と私の間に何らかの形での「友情」のようなものを育んできたのではないか、という考えはうがち過ぎだろうか。
だが、少なくともこの私自身は、彼とのメールでの短いやり取りの中に、確かにそうした「厚いもの」を感じていたことだけは確かなのである。
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